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教育ニュース
中学生にとって、スマホやSNSはもはや「体の一部」。大人が正論を振りかざして「ルールを守りましょう」と説いたところで、彼らの心にはなかなか届きません。
そんな難しさを感じる先生も多い中、千葉大学教育学部附属中学校1年生で中井先生が行った『SNS情報モラルドリル』(日本教科書)の道徳授業は、生徒たちの表情がみるみる変わっていく、非常に印象的なものでした。今回はその授業の様子を、教室のリアルな空気感とともにお届けします。

授業は、中井先生のこんなカジュアルな問いかけから始まりました。
「みんな、YouTube見る? 使ってる?」 「見るー!」「アカウントないけど見てる」
口々に答える生徒たち。デジタルネイティブの彼らにとって、それは当たり前の日常です。そこで先生は少しトーンを変えて問いかけます。
「リアルな社会で、いきなり人をぶったり蹴ったりしたらどう?」 「そんなのダメに決まってる」 「じゃあ、デジタルの世界ではどうかな? リアルとデジタル、切り離して考えてない?」
生徒たちが少し考え込んだタイミングで配られたのが、今回の教材『SNS情報モラルドリル』です。 「あ、マンガだ」「これ、あるあるじゃん」 テキストだけの教材だと「勉強モード」になりがちですが、マンガを目にした瞬間、生徒たちの関心が一気に高まるのが見て取れました。

最初に取り上げたのは第5話『バズって炎上』。 「アヒルに石を投げる動画」を投稿して炎上した中学生の話です。
最初は生徒たちも、「動物虐待とか人間性を疑う」「承認欲求のためにやるなんてバカだ」と、投稿者を厳しく批判していました。 しかし、物語が「特定班による個人情報の暴露」や「学校への執拗な通報」に進むと、教室の空気が変わります。
「確かに動画を撮った人は悪い。でも……」
ある生徒がポツリと言いました。 「日頃のストレス発散のために、『こいつは悪い奴だ』って正義感を盾にして攻撃してるだけじゃない?」「ここまで寄ってたかって叩く必要ある? 関係ない人たちが面白がってるだけに見える」
「悪いことをした人になら、何を言ってもいいのか?」 マンガを通して客観的に状況を見ることで、生徒たちは「行き過ぎた正義」が孕む暴力性に自ら気づき始めていました。


さらに生徒たちを唸らせたのが、生成AIによるフェイク動画を扱った第6話です。 友達の偽動画(ディープフェイク)を見つけた主人公が、善意で「これ偽物だから気をつけて!」と拡散した結果、逆に動画を広めてしまうという皮肉な展開です。
「うわ、これ一番怖い……」
生徒たちからは、悲痛な感想が漏れました。 「コメントなんてしなきゃよかったんだ。注目させて逆に広めちゃってる」「被害者の女の子、もう学校行けないよね。デジタルタトゥーとして一生残るし」
主人公には悪気がない。むしろ友達を守ろうとした。それでも結果として加担してしまった――。 「保存するのもダメ、送るのもダメ」という法的な知識と合わせて、「無自覚な加害者」になり得るリスクを、生徒たちは肌で感じていました。

授業後の生徒たちに話を聞くと、このドリルがいかに「自分ごと」として刺さったかが伝わってきました。
ある生徒は、マンガに出てくる「テスト前なのにスマホがやめられない」というシーンに苦笑い。 「僕もスマホ持ち始めた頃にやっちゃったんですよ。テスト2週間前なのにずっと見ちゃって……。マンガを見て、あぁ自分も依存してたんだなって痛感しました」
また、ドリルにある「使用時間を記録するワーク」についても、 「スマホの機能で見るだけだと甘えちゃう。こうやって紙に書き出すと『こんなに使ってたのか』って現実を突きつけられるから、自己管理に役立ちます」 と、前向きな変化を語ってくれました。

授業を終えた中井先生に、教員目線での率直な感想を伺うと、開口一番に出たのは「攻めている」という言葉でした。
「第6話のディープフェイク(AI)の話なんて、正直かなり『攻めた内容』だなと思いました。私たち大人が追いつけないスピードで技術が進化している中で、ここまでタイムリーな話題を扱っている教材は珍しいですよね」
中井先生は、情報の授業が単なる「ルールの押し付け」になってしまうことに、以前から課題を感じていたと言います。
「情報モラルって、どうしても『これはダメ』『あれはダメ』という『指導』になりがちなんです。でも本当は、道徳のように『どう生きるか』を考えさせたい。 このドリルは、『アヒルに石を投げるのは悪い』という当たり前の話で終わらせず、『それを叩く社会はどうなの?』という深いところまで議論を広げられます。生徒たちに『公徳心(社会の一員としての意識)』を持たせるには、まさにうってつけでした」
また、現場の先生として「使い勝手」の良さも強調されました。
「教科書の読み物資料だと、読むだけで時間がかかってしまい、肝心の議論の時間が足りなくなることがあります。でもこのドリルはマンガなので、1ページ読むのに1分もかかりません。 その分、4つの問いについてじっくり考えさせたり、生徒同士で議論させたりする時間を十分に確保できました。50分の授業だけでなく、朝の会や帰りの会のような短時間でも活用できる汎用性の高さも魅力ですね」
最新のAIトラブルから、集団心理の怖さまで。 『SNS情報モラルドリル』は、変化の激しいデジタル社会を生きる生徒たちに、「正解のない問い」を投げかけるための最良のパートナーと言えそうです。

実際の授業の様子は動画でもご覧いただけます
(日本教科書編集部)