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教育ニュース
道徳の授業で一番悩ましいのが「評価」です。
「親切にする」「命を大切にする」。それはとても大事なことですが、生徒の心の美しさを点数化するわけにはいきません。 「結局、何を基準に所見を書けばいいの?」
そんな現場の長年のモヤモヤを解消するヒントが、文部科学省のワーキンググループから令和8年1月20日に発表された資料『特別の教科 道徳に関する目標・内容の構造化等について』(以下、『構造化案』)にあります。
この『構造化案』の画期的な点は、道徳の目標を、国語や数学と同じ「資質・能力の3つの柱」できっぱりと整理し直したことです。
これを使えば、道徳は「つかみどころのない教科」から、「技術(スキル)として教え、評価できる教科」に変わります。3つの柱それぞれの「授業での役割」を見ていきましょう。
「道徳に知識?」と驚かれるかもしれませんが、これは用語の暗記ではありません。『構造化案』ではこれを「道徳的諸価値についての理解」や「物事を捉える視点」と定義しています。
【授業での役割】
生徒に「考えるためのレンズ」を渡すことです。 例えば「誠実」というテーマなら、「嘘をつかないこと」という表面的な意味だけでなく、「誠実さと正直さはどう違うのか?」「相手を傷つけないための嘘は誠実か?」といった概念そのものを、言葉で説明できる状態にします。 「なんとなく良いこと」で終わらせず、まず「言葉の定義」を知識として持たせるのです。
第2の柱は、手に入れた知識(レンズ)を使って、実際に考えるトレーニングです。『構造化案』では「自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深めること」としています。
【授業での役割】
ここで教師が見るべきは、結論(良いことを言ったか)ではなく、葛藤のプロセス(悩み方)です。 「Aさんの立場ならこうだけど、ルールの視点から見ると違うな」 「この場面での『親切』は、逆にお節介になるかもしれない」 このように、第1の柱で得た知識を使い、あっちこっちと視点を変えながら最適解を探そうとしているか。その「思考の深まり」そのものを評価します。
第3の柱は、授業の後どうありたいか、という姿勢です。『構造化案』では「人間としての生き方を考え続ける」ことや、道徳的な価値を実現しようとする意欲に関わるとされています。
【授業での役割】
これは「完璧な人間になったか」を見るのではありません。 「今日の授業では答えが出なかったけれど、これからも考え続けたい」 「これまでの自分の行動を振り返って、明日はこう変えてみようと思った」 というように、授業内で完結させず、自分の人生に引きつけて考えようとする姿勢(スタンス)を評価します。
今回、文科省が示した『構造化案』は、単なる用語の整理ではありません。これは、道徳の授業を「先生の感性」任せにせず、「再現性のある技術」へと進化させるためのロードマップです。
これを取り入れると、これまでの授業と何が変わるのでしょうか。
【Before:これまでの道徳】
【After:構造化された道徳】
「構造化」という言葉は難しく聞こえるかもしれません。しかし、その本質は「道徳という教科を、もっと学びやすく、教えやすいものにしよう」という、現場へのメッセージです。
まずは次回の授業で、「今日の授業で獲得させたい『知識(言葉の定義)』は何か?」と問い直すことから始めてみませんか。それだけで、生徒の反応も、先生の評価のしやすさも、劇的に変わるはずです。
【参考資料】
特別の教科 道徳に関する目標・内容の構造化等について(令和8年1月20日教育課程部会/道徳ワーキンググループ/資料1)
(日本教科書編集部)