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道徳授業動画解説 「正解」を言わない道徳授業 浪速中学校・阿部先生インタビュー

2025.08.26

浪速中学校で行われた、阿部先生による1年生道徳の授業。この日のテーマは「自由とは何か」でした。この深く、そして難しい問いに対し、ある生徒から「平和であること」という意見が出た時、阿部先生は心の中で驚いたと言います。

一見すると、少し意外にも思えるその答え。しかし、その言葉をきっかけに、クラスの対話は深まっていきました。なぜ、阿部先生の授業では、生徒からこのような多様な意見が出てくるのでしょうか。授業後、阿部先生にお話を伺いました。

【「平和」という答えへの驚きと、「評価しない」という選択】

インタビューの冒頭、阿部先生は授業をこう振り返ります。

「『自由とは何か』という問いに対する最初の『平和』という答えには、結構びっくりしましたね。正直なところ、そんな答えが出てくるとは思っていませんでしたから。『ああ、なるほど』と。」

そして、その驚きと同時に、ご自身の心の中で葛藤があったことを明かしてくれました。

「本当に一瞬、『それ、いい意見だな』って評価してしまいそうになったんです。でも、そこをぐっとこらえました。基本的に、道徳の授業で教師が『評価』をすると、生徒たちは『正しい答えを言わなければいけない』という気持ちになってしまうからです。」

生徒たちが「正解」を探し始めると、自分の心からの言葉や、自由な思考が止まってしまう。それを避けるため、阿部先生は自身の言葉選びに細心の注意を払っています。

「ですから、『それいいね』とは、なるべく言わないようにしています。代わりに、『なるほど』とか『面白いな』『素敵な言い方だね』という言葉で受け止める。教師が正しいとか正解だとか言わないことで、次の生徒も安心して発表できるようになるのです。」

特に、多様な意見が出やすい授業の冒頭では、この姿勢を徹底していると言います。生徒たちの思考の扉を開く、大切なアプローチです。

【過去の学びと繋げることで、思考を深める】

また、阿部先生の授業では、過去の学びを振り返ることで、生徒たちの思考をさらに深める工夫がされていました。

「以前に扱った『稲村さんの苦悩』という教材の話を、今日の授業でも持ち出しました。これと今日のテーマなら繋げやすい、と考えたからです。生徒たちは自分のポートフォリオを見れば、以前の自分の考えを振り返ることができますし、ちょうどいいタイミングだと思いました。」

点であった学びが線として繋がる瞬間は、生徒たちにとって大きな発見となります。あえて結論ありきで話を進めるリスクも感じつつ、学びの繋がりを見せることの価値を優先した、と阿部先生は語ります。

【教師の答えは、生徒たちが考え抜いた後に】

授業中、阿部先生自身の「自由」に対する考えが語られることはありませんでした。そのことについて尋ねると、明確な答えが返ってきました。

「普段、自分の結論や気持ちを話すのは、生徒全員が自分の感想を書き終わった後です。例えば、『実はこの教材、先生はあまり好きじゃないんだ』なんて本音を言うことすらあります。でも、それは必ず生徒たちが自分の意見を固めた後。私の考えに、生徒たちが引っ張られてほしくないからです。」

教師の役割は、答えを教えることではなく、生徒たちが自分自身の答えを見つけるための手助けをすること。その信念が、授業の構成に表れています。

「私のクラスは、周りの人に対して自分がどうあるべきか、というのを強く考える生徒が多いんです。だからこそ、『平和』のような、他者との関係性を大切にする言葉が出てきたのかもしれません。」

生徒一人ひとりの個性と、クラス全体の特性を深く理解し、信頼しているからこそ、生徒主体の授業が成立するのです。

インタビューを通して見えてきたのは、生徒の思考を止めないための繊細な配慮と、生徒たちの力を心から信じる教師の姿でした。ぜひ、記事上の動画から、生徒たちの活発な議論の様子をご覧ください。

 

【取材・文/日本教科書編集部】